|
|
Updated: 20 July,
2004
May,2004
Mio H. Yanagisawa
2004年春のゴールデンウィークに旧ソヴィエト・バルト三国の一つ、リトアニアを旅行してきました。その際、ソヴィエト時代に旧西側からの旧東側向け放送にジャミング(妨害電波)を発射していた送信所の一つを、現地の放送関係者に案内していただきましたので、概要を簡単にお話したいと思います。
案内していただいたのは、リトアニアの放送局Radio
Baltic WaveのProject Coordinator 、Rimantas
Pleikys氏。今は職を辞していますが、ソヴィエトからの独立後、リトアニアの通信情報大臣も務めた時期もあります。
今回訪問した送信所は首都Vilnius市中心部から少し西の郊外のVirsuliskes地区にあります。ジャミングの送信施設、特にアンテナはそのほとんどが取り壊されているとのことですが、ここでは1955年から1988年まで短波のジャミング用送信所として使われた後、現在では氏が運営に携わるRadio
Baltic
Waveが設備を引き継ぎ放送を行っています。
設備の詳細については、リトアニアの方が書かれたホームページに記してありますので、そちらに譲ります。ここでは私がPleikys氏と交わした話を中心にお話しします。
私は事前に氏とe-mailで、私が宿泊するVilnius市内のホテルのロビーで4月29日の午後4時に会いましょう、とアポイントメントを取りました。ロビーで待機していると、定刻より遅れること5分、Rimantas
Pleikys氏が運転手氏とともにロビーにやってきました。
しばらくぶりに会った旧友同士の如くがっちり握手。早速クルマへと案内されます。乗り込むや否や「これは私からのプレゼント」として、氏が運営をしているRadio
Baltic
Waveのスケジュール表、そして氏の著書「Jamming」をいただきました。目指す場所は、クルマで15分ほどの道のりですが、車中では何年も会わなかった友人のようにいろいろ話し込みました。
_files/jamming.jpg)
Rimantas Pleikys氏の著書「JAMMING」
この時氏からいただいたRadio Baltic
Wavesのスケジュールのうち、今回訪問するVirsuliskes送信所からのスケジュールは以下の通りです(時刻はUTC。リトアニアはUTC+2時間だが、訪問時はサマータイムを採用していたのでUTCとの差は3時間)。周波数は612kHz、出力は100kwです。前の晩にホテルでも聞いてみました。
0300-0500UTC
Radio Free Europe/Radio Liberty in Belarusian
0700-1500UTC Voice of
Russia in Russian
1500-2100UTC Radio Free Europe/Radio Liberty in
Belarusian
2100-2130UTC Radio Polonia in Belarusian
_files/bbr.jpg)
Radio Baltic Waves(Baltijos Bangu Radijas)のロゴ
同局はこの他にリトアニア第2の都市Kaunas郊外のSitkunaiにも送信所があり、そこからは主にChina Radio
Int.を中波で送信(中継)しています。同局は以前自局制作番組もあったようですが、現在は行っていません。なお、リトアニアの放送局はほとんどがFMで、中波で放送しているのは、この局と国営のLietvos
Radijas第1プロの666kHzだけです。
Pleikys氏(以下「P」と略す):「私達は現在おもに海外の放送局を中継しています。もしオファーがあればNHK-Radio
Japanの中継もぜひやりたい」
M(=私、以下「M」と略す):「それはすばらしい。私もそうなることを期待します」
P:「ここ(リトアニア)は、ヨーロッパとロシアおよびアジアを結ぶ放送の中継地点としては非常に絶好な場所なんですよ」
よくよく考えてみると、地政学上では全くその通りだと思いました。その地の利を生かして、いろいろな放送の中継をしているのですね。
私たちのクルマは、市の“精神的”中心部である大聖堂の横を通ります。広場ではなにやらイベントの準備をしており、国営放送局の看板も目につきました。
M:「おお、これは何をしようとしているのですか?」
P:「私達は明後日EUに加盟します。その記念コンサートが明晩ここで開かれるのです
よ」
いよいよEUの一員となったという誇らしげな説明に、思わず、
M:「Congratulations!
」
P:「Thank you very much.」
さてスケジュール表に目を落とすと、Sitkunai送信所からの放送は、周波数は2波あり1386kHz(500kW)と1557kHz(150kW)です。1386kHzの方にはChina
Radio
Int.のチェコ語プログラムが1時間ありました。
M:「チェコでこの放送が聞こえるのですか?」
P:「もちろん聞こえます。放送開始初日から受信レポートがたくさん来ました。実はこの1386kHzは、長い間カリーニングラード州(ロシア)の局(WRTHによるとVoice
of
Russiaのドイツ語プロ)と混信していたのです。そしてITU(?)のしかるべき調停の場にクレームを申し入れて交渉した結果、相手が譲歩して和解しました。今この周波数を聞くと、1900UTCまではカリーニングラード州の局が出ており、1900に同局が終了すると、入れ替わりに我々(Radio
Baltic Waves中継のChina Radio Int.)がオンエアしています」
話題はいつしかジャミングの話に。
M:「日本のまわりは依然としてジャミングだらけですよ。特に中国が」
P:「そうです。音楽のジャミング(過変調のジャミングのことを指しているのだろう)ですね。特に中国は増強しています。近年西域のカシュガルに新しい送信設備を置いて妨害を増強している。ひどいものです。」
クルマは、戦前の日本の外交官、杉原千畝(すぎはら・ちうね)を記念して名前がつけられたスギハラ通りを過ぎてほどなく、目的地に到着しました。
施設は住宅地に隣接した敷地にあり、周囲は柵で囲まれています。門を入ってそのまままっすぐ進むと送信所建物があります。入口の手前に番犬が2匹いました。建物は2階建てで、ここには送信機が3台あります。1階には1号機(50kw)が、2階は2号機(50kw)と使用していない3号機(20kw)、それとオペレーティングルームがあります。さっそく中へ入り、1階の1号機から説明を受けます。日本でも送信所の中に入ったことはないので、送信機を見ると「おお、こんなもんか」という感じです。
送信機はチェコのTESLA社製。真空管が時代を物語っています。パワーアンプ(?)あたりなんかは、真っ赤になっています。相当電流が流れているんでしょうね。同局はこの1号機と2号機の2つを使って100kwで送信。訪問時はRadio
Free Europe/RadioLibertyのベラルーシ語がオンエアされていました。
さて、部屋の片隅にはすでに使われなくなった設備がありました。これがジャミング発射用として過去に使用されていた機械の一部です。詳しい仕組みはあまりよくわかりませんが、周波数が1桁ごとにダイヤルで合わせるようになっていて、
P:「このダイヤルを7、次を2、その次を6、最後を5と、こういう風にキャリアを あわせて7265kHzに同調するのです…」
M:「なるほど」
ところでジャミングをかける時には、事前にその周波数をワッチする必要があると思い、
M:「相手局の受信はどうしていたのですか」
と聞くと、
P:「ここでは受信はしていないのです。別の場所にモニタ専用の施設があり、そこか らの指示で電波を発射・停止していたのです」。
1階の説明が終わった後2階に上がると2号機と3号機が。そしてオペレーションルームには職員(おじさん)が一人座っていました。挨拶と握手を交わします。オペレーション卓の横には、周波数校正(?)用の機械が何台か置いてありました。
オペレーションルーム外のテラスには、この放送のソースを受信するパラボラアンテナが2、3台、ところ狭しと並んでいます。パラボラの脇にはネコが“ドーン”と鎮座。
P:「ここにはあと5、6匹いますよ」
次に外へ出て、フィーダー線とアンテナを説明していただきました。傍らには家庭菜園とおぼしき畑が。結構収穫があるようです。
建物からフィーダー線が50mほど伸びていてその先のアンテナタワーにつながっています。アンテナ塔の周囲には柵があり、鍵がかかっています。アンテナ自体はなんの変哲もないものです。ここでPleikys氏、柵の錠を指差し
P:「ここに耳を近づけてみて!」
言われたとおりに錠に耳を傾けると…なんと、錠から音が聞こえるではありませんか!
M:「えーっ、放送が聞こえるぞ」
P:「ハハハ、びっくりしたでしょう。至近距離ですからね、放送が聴けてしまうので す」
さて、駆け足でしたがこれで案内はおしまい。局を後にする際、
P:「今はコンピュータ技術が発達し、ネットでMP3ファイルを実行(?)すれば簡単に放送が楽しめる。中波の放送も、この送信所もいずれ用がなくなるでしょうね。でも技術が進化することを期待したいです」
M:「私もそう思います」
再びクルマに乗り、ホテルへ送っていただきます。その間にも会話は続きます。
P:「私の愛機はICF-SW55。93年にパリへ行った時に買ったんです」
M:「でもあれスピーカーが変な形ですけど」
P:「確かに。でもこれまで故障もなく動いている。小さいがとてもすばらしいラジオです」
M:「ところでソヴィエト時代はRadio
Vilniusの北米向けプロが極東中継だったので、 日本でよく受信できました。私はRadio
Vilniusがとても好きでした。今は受信で きず、とても残念です」
P:「極東中継はアメリカ西海岸向けでした。アメリカ東海岸向けにはリトアニアから の直接波を送信していたのです」
M:「なるほど」
M:「ところで大変失礼な質問ですが、リトアニア国民の平均収入はいくらぐらいです か」
P:「そうですね、平均月収は300ユーロです。ただ300ユーロ位の中間の収入層 が少なく、一握りの富裕層の他は平均以下の層が多いです。」
旧市街の中心部にあるRadisson
SASホテルの前を通りました。
P:「このホテルは(アメリカ大統領)ブッシュが来た時に泊まったホテルです」
M:「そう言えば大統領選挙があるようですね」
P:「ええ。前の大統領はスキャンダル(後で調べたらマフィアと金銭的な関係があっ たらしい)で辞任しました。またEUに加盟しますので、欧州議会(?)議員選挙、 あと国会議員選挙があり、今年だけで3つの選挙があるんです」
夕方のラッシュアワーとぶつかり、ただでさえ狭く一方通行が多いVilnius旧市街はクルマの流れが悪く、ホテルに到着するまでかなり時間がかかりました。ようやくのことでホテルに着き、クルマから降りて別れの挨拶を交わしました。その際、日本から持ってきた純米酒をPleikys氏と運転手氏にプレゼント。「今後とも宜しく」と再び堅い握手を交わして、両氏のクルマを見送りました。
Rimantas
Pleikys氏。非常にエネルギッシュな方でした。放送にかける使命、情熱はなみなみならぬものを感じました。別れ際に再度「将来NHKの中継をしたい!」と口走ったのは、私にその仲介を取り持ってもらえないか?と言っているような気がしてなりません。これを読んでいるNHK関係者の方!ぜひ一考を。昨今たくさんの日本企業の工場が進出している旧東欧向けに、リトアニアは絶好の放送中継地なのです。
−終わり−
○注1)リトアニアの放送についてのホームページはこちら
その中で、今回訪問したVilnius市郊外VirsuliskesにあるRadio Baltic Wavesの施設についてのホームページはこちら。案内していただいたPleikys氏も写っています。
http://www.zilionis.lt/rtv/qth/vil/vilj-e.htm
また、彼の著書「JAMMING」についてはこちら。氏の略歴も少し書いてあります。
http://www.zilionis.lt/jamming/index.htm?e
○注2)Radio Baltic Waveが制作したジャミングについてのサイトはこちら
To Index in
English To Index in
Japanese To Index in
Chinese
To Top page